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「Single-Cell(シングル・セル) 2017」セミナーレポート

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Single-Cellエー・イー企画オリジナルセミナーシングルセル

「Single-Cell(シングル・セル) 2017 -Single-Cellマルチオミックス解析における臨床応用への可能性」セミナーレポート

人体は200種に上る細胞から構成されており、それぞれが自律と協調のバランスを保ちながら活動しています。つまり、同じ細胞種であっても、分子レベルではわずかなちがいがあることになりますが、その実態は未解明でした。ごく最近になって次世代シーケンサーを用いた単一細胞の解析(シングルセル解析)が可能となり、少しずつ成果が出始めています。昨年12月19日、5回目となるエー・イー企画オリジナルセミナー「Single-Cell 2017セミナー」が開催され、この分野を牽引する3名の研究者が最新成果や課題、展望について講演しました。

参考:エー・イー企画 オリジナルセミナー第5弾「Single-Cell(シングル・セル) 2017 -Single-Cellマルチオミックス解析における臨床応用への可能性」ホームページ

 

Single-Cell解析の現状と展望---菅野 純夫先生

講演の一人目は、座長を務めた菅野先生が登壇しました。冒頭で菅野先生は、「これまでの遺伝子発現解析は技術的な限界により複数の細胞を対象にせざるを得ず、細胞ごとの遺伝子発現を正しく描出しているとはいえませんでした」と話し、これを「原理的な問題」と位置づけました。さらに「教科書に記されているような組織や細胞の状態と経時変化も、おおざっぱに調べてストーリーに仕立てたにすぎません。ひとくちに病変と言っても、上皮に近い部位か、組織の奥深くかといったことで遺伝子発現が大きく異なり、私はこれを生物学的な問題としてとらえています」と続けました。

そのうえで、原理的問題と生物学的問題を解決するためには1細胞の解析(シングルセル解析)が必須だと強調し、DNAやRNAの塩基配列を比較的安価に、高速かつ高精度で読める次世代シーケンサーの登場でようやく現実味を帯びてきたと紹介しました。「2012年頃からツールとしてのシングルセル解析が検討されはじめ、工夫すれば1細胞でも高精度に発現解析できるとわかってきました。私自身、培養がん細胞を使って2000万に及ぶ塩基対を解析してみたのですが、それぞれのがん細胞ごとにエクソンの出方が異なっていることまでわかり感動しました」と菅野先生。

終盤は、海外の状況や国際プロジェクト、技術的な課題に話が及びました。「現在、英国のサンガーセンター、米国のコロンビア大学をはじめとする国際コンソーシアムにより、人体の全細胞のシングルセル解析と遺伝子発現マップの作成を目指すヒューマン・セル・アトラス(HCA)プロジェクトが始まっています。日本では理化学研究所 ライフサイエンス技術基盤研究センターのピエール・カルニンチ氏が窓口となっています」と紹介。HCAプロジェクトにおいてシングルセル解析の方法論や評価方法の確立も模索されていること、一方で拾えない情報も多くあり課題が残されていること等にも触れ、「プロテオームや臨床応用となるとまだまだです。私自身も日本においてHCAと同様のプロジェクトを統括しており、解析を進めると同時に解決策を探っていきたい」と結びました。

 

シングルセル解析による病態解明から臨床応用までの展望---野村 征太郎先生

つづいて、循環器内科医の野村征太郎先生が登壇しました。野村先生は臨床と研究の二足のわらじを履きつつ、日々奮闘されています。研究においては、心筋細胞と非心筋細胞の相互作用、リモデリング、恒常性の維持と破綻といった、心不全で未解明な機序について検討されているとのこと。はじめに「心不全の予後は性別によらずがんと同じくらい悪い。はじめは心臓の壁が厚くなりますが、徐々に壁が薄くなって心肥大を呈し、機能不全に陥ります。詳細な病態を理解するためには、細胞レベルで何がおきているのか解析する必要があります。私たちは圧負荷心不全モデルマウスや患者さんの心臓1細胞を対象に発現解析(RNA-seq解析)を行い、心肥大や心不全といった病態に関与する因子の特定を急いでいます」と話しました。

「圧負荷心不全モデルマウスとは、横行大動脈を人工的に狭窄させることによって心臓に負荷をかけ、心肥大・心不全を誘導するマウスモデルです。心不全までの6つのタイムポイントで心臓から心筋細胞を単離し、細胞ごとに全遺伝子の発現情報を得ました。そのデータを基に共発現遺伝子ネットワークを作成し、ミトコンドリア関連、心筋収縮関連、細胞間接着関連、酸化的リン酸化関連といったような7つの遺伝子モジュールに分類しました」と野村先生。その結果、それぞれの遺伝子発現が時々刻々と変化していく様子が浮き彫りになり、カルシウムポンプの制御遺伝子が心臓収縮遺伝子ネットワークのハブとして機能していること等がわかったといいます。

さらに野村先生は「心肥大が進むにつれ、心筋細胞においてミトコンドリア関連遺伝子の発現が亢進し、この現象が細胞面積の増大と相関するとわかりました」とし、次のように続けました。「肥大期に特異的に発現する遺伝子のなかには、がんとの関連で有名なp53遺伝子が含まれていました。そこでp53を心筋特異的にノックアウトしたマウスを作ってみたところ、心臓は肥大するものの心不全にはならないことがわかりました。どうやら、p53は心肥大後の細胞伸長を制御しており、肥大から伸長へのスイッチが心不全状態への移行において重要であるようです」。

野村先生は、左室補助人工心臓の植込み手術時に切除された患者さんの心筋細胞を利用した解析も行っているといいます。講演の最後は「この手術を受ける患者さんは心臓移植が必要なほど重篤です。そこで、モデルマウスと同じ手順でシングルセル解析してみたところ、ヒトとマウスで病態関連遺伝子の発現パターンが極めて類似していることがわかりました。今後は病理像を空間的な遺伝子発現情報に変換する技術を確立し、病態とリンクできるようにしたいと考えています」とまとめました。

 

シングルセル解析の腫瘍免疫研究への応用---冨樫 庸介先生

最後の講演は、がん免疫を専門とされる冨樫先生でした。免疫というと「外来の異物を排除するもの」と思いがちですが、腫瘍も体にとっては異物であり、抗腫瘍免疫応答として知られています。「がんに対する免疫応答は、発がんやがんの進展に深く関与しています。時間的な流れで言うと3つの相に分けられます。第1は、がん細胞を異物として排除する相(排除相)。第2は、排除できなくても進展を抑制する相(平衡相)。第3は、生存に適したがん細胞の選択、免疫応答を逃避する微小環境づくり、臨床的ながんの完成へと至る相(逃避相)です」と冨樫先生。

さらに冨樫先生は、抗腫瘍免疫応答に最も重要と考えられているT細胞に焦点を当て、腫瘍細胞からのがん抗原の放出、抗原提示細胞によるがん抗原の提示、T細胞の最初の認識・活性化、活性化したT細胞の腫瘍局所への遊走、浸潤、T細胞による腫瘍局所でのがん抗原の認識、T細胞による攻撃、という7つの免疫応答ステップがあると説明しました。

近年、大きな注目を集めている抗PD-1/PD-L1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害剤は、がんの免疫系からの逃避機構を阻害することでT細胞を活性化し、逃避相から排除相へと逆戻りさせる薬剤です。「とてもよく効く例もありますが、すべてのがんに効くわけではありません。高価な薬ですので、どのようながんに効くのか、あらかじめ予測する必要があると思います。理想的には、患者さんの腫瘍浸潤リンパ球(TIL)を生きた状態でシングルセル解析を行うのがよいと考えています」と冨樫先生。

実際に脳腫瘍、頭頸部がん、肺がん、胃がん、大腸がん、乳がんなどの1200以上の検体を対象にTILの解析をはじめており、30色もの蛍光色素を用いたマルチカラー・フローサイトメトリー、CyTOF、さらにはシングルセルRNAシークエンスなどを利用した「がん組織から生きたTILを分離抽出するシステム」を確立済みとのことです。「1センチ角くらいの検体があると理想的」と紹介しました。

とはいえ、冨樫先生が所属する国立がん研究センターのように「生きた細胞」を解析できる病院はそう多くないと思われます。最後は「凍結検体やより小さな病理切片でも解析可能なシステムの開発も必要で、ひきつづき研究開発を進めたい」と締めくくりました。

 

講演者と共催企業によるパネルディスカッションも

講演の合間や終了後には、本セミナーを共催し、シングルセル解析事業を手がける7社によるプレゼンテーションや質疑応答の時間が設けられました。さらに、ランチやコーヒーブレイクの時間には参加者と協賛企業との個別商談も行われました。セミナーの最後は、講演者3名と共催企業セミナー発表者によるパネルディスカッションが行われ、熱い議論の末、17時過ぎに閉会となりました。

取材・文/サイエンスライター 西村尚子

共催企業一覧

バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社
アズワン株式会社/NanoString Technologies, Inc.
株式会社スクラム
プロテインシンプル ジャパン株式会社
タカラバイオ株式会社
バイオストリーム株式会社
フリューダイム株式会社

【関連記事】 シングルセル解析 「単一細胞からわかること」についてまとめてみた。

 

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