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震災で家族全員を失くした少年の物語『星めぐりの町』

先日、黒土三男の脚本・監督作品の『星めぐりの町』という映画を観ました。映画やドラマなどで50年以上にわたり活躍する名優・小林稔侍さんは、ドラマでの主演こそ当たり前のようになっていましたが、映画はなんと昨年2018年の本作が初主演作とのことでした。

東日本大震災で家族を失い、たった一人で生き残ってしまった心に傷を負った少年と、早くに妻を亡くし、娘と2人で暮らしながら、毎朝、手間と時間をかけて、こだわりの豆腐作りを続けている職人との…運命の出会いから物語は始まっていきます。

少年は震災の津波で家族全員を失い、その後親戚の家をたらい回しにされ、豆腐職人と出会う頃には言葉も発せず心を完全に閉ざすようになっていました。豆腐職人の亡くなった妻が、最後の遠い親戚という事で委ねられることになったのです。

言葉を発しないばかりか、食べ物すら口にしようとしない少年に周囲は困り果てていたのですが、妻を亡くした豆腐職人だけは、あれこれと強要せず、ただ静かに見守り続け、自然に根ざして暮らす中で、少しずつ心を再生させていきました。

そんなある日、豆腐職人が豆腐の配達に出ている最中、町を大きな地震が襲います。少年の事が心配になった豆腐職人は、急いで帰宅しますが、1人で留守番をしていた少年は、震災の恐怖がよみがえり、既に忽然と姿を消していました・・・。

大勢の人が必至で少年を探す中、豆腐職人だけは、少年が帰ってくることを信じ、家で待ち続けます・・・。少年が自身との闘いに打ち勝ち、きっと帰ってくると信じて・・・

物語の後半では、小林稔侍さん演じる豆腐職人が、少年に向かってこんな事を語りかけます。

生き残ったのには意味がある
生かされたのには意味がある
辛いのも悲しいのも意味がある

すると、心を開いた少年が宮沢賢治の雨ニモマケズを暗唱していき、途中から2人で交互に暗唱していくと、最後に少年が未来に向けてのメッセージを織り込んでいくのです。

雨ニモマケズ
風ニモマケズ
雪ニモ夏ノ暑サニモマケヌ
丈夫ナカラダヲモチ
慾ハナク
決シテ瞋ラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
・・・・・

ちょっと、展開には無理があるかなぁという気もしましたが、まぁ、細かい事は気にせず、心を閉ざしていた少年が、未来を語れた事に素直に喜ぶべきかと…。何と言ったかは、是非、映画を観て聴きとって頂ければと思います。

思えば、こうした人生の先輩と、人生の入り口に立ったばかりの幼き魂の交流を通して、生きていくことの大切さを教えてくれる尊い物語…。今は亡き高倉健さんの映画には、そんな心に染みわたるような作品が数多くありました。

主役の小林稔侍さんは、中学生の頃から高倉健さんのファンで映画界に憧れ、映画界に入ってからも、高倉健さんに良くして貰ったことを何かにつけて話しておられます。多くを語らず演技で見せて心に訴えていく・・・。先日の樹木希林さんといい、こんな役者さんも数少なくなりました・・・。

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